胸が高鳴る人生のリスタート‼️
平成16年1月4日午前10時
俺はアデコに初出勤した
教育カウンセラーとして第一歩を踏み出すんだ
日本一
いや世界一の教育カウンセラーを目指して
俺は熱く込み上げ高揚した気持ちを抑え
足早に階段を駆けのぼった
3階 ここだ
ほのかに汗ばんだ手で
力強くドアノブを握り扉をあけた
『おはようございます!今日からよろしくお願いします‼️』
室内に俺の声が響いた
完璧なほどの元気な挨拶に
体が小刻みに震えた
距離にして5mくらいであろうか
口角を上げ、満面の笑みで俺を見ている男がいた
あの喪黒福造にそっくりの狸支店長だ
アメーバ柄のペルシャじゅうたんの様な
異様なジャケットを着ていた
その時である
ドーーーーーン
と勢いよく
『おぉーーー玉ちゃーんおはようちゃーん
玉ちゃんさ 今日から ここ 座っちゃっていーからねぇ!』
と狸は言った
『ここという場所』に狸は手招きをしながら
俺を導いた
こっちこっち
玉ちゃんこっち
狸は立ち止まり
事務所の奥にある大きな机を指差し言った
これさぁ 玉ちゃんの席だからね
これから張り切ってじゃんじゃん稼いじゃってよ
座っちゃってよ ここに
俺は思考が停止した
そしてその場に立ちすくみ机を見渡した
経験上明らかにたくさんの部下を持つ人が座る席であった
そうこうしている中
次々と先輩社員達が出勤してきたのである
ネクタイをしている七三分けの男
ノーネクタイの爽やかな花柄のシャツを着た男
ツンツンと茶髪を立たせたホスト風の全身黒い男
ギャル風の唇がプルっとした茶髪の女
お疲れっす~~~
わっす~~~
おはよっす~~~
す~~~~~~~う
様々な服装、髪型の先輩方が
様々なあいさつで続々と出勤してきた
表情は皆自信に満ち溢れていた
ふてぶてしく
そして不敵な笑みを浮かべ堂々としている人ばかりであった
俺は柄にもなく
若干もじもじしながら
席に座れずに立ちすくんでいた
『じゃぁ朝礼始めちゃうよ〜!
みんなならんじゃってー!』
狸支店長の大きな声が室内に響いた
新年一発目だから気合い入れていくからねぇ
まるで昔見た「夕焼けにゃんにゃん」のADバリに進行する姿に
収録前の様なほのかな緊張感が流れた
部屋の空気が張りつめ
にやいた先輩達は席を立ち凛々しい表情に変わった
俺は10名程の猛者達を従える課長席の横に立っていた。
そう
明らかに数々の試練をくぐり抜けた
選ばれし男のリーダーのようであった
1月4日ーー!
新年一発目の朝礼を始めるよ~!
おはようございます‼️
気合い入ってるか!
明けましておめでとう‼️‼️
狸支店長が怒鳴って挨拶した。
え⁉️なぜ?新年・・・気合いなんで?
俺は教育カウンセラーの『気合い』が理解できなかった
ただならぬ空気を感じた。
狸支店長は足早に俺に近づき
俺の肩に手を乗せた
超スペシャルな新人ちゃんを紹介するね〜
猛者達は一堂に俺に集中した
刺さる視線が痛かった
元特捜刑事の玉ちゃん!!!
期待の新人ちゃんってわけ
今日から課長としてこの席に座ってもらうから
一か月研修だけどよろしくね!
ガハハハハハハ
と言い放った
明らかに狸の挨拶はおかしかった
ガハハじゃねぇし
そして
松本支店営業十訓とやらを怒鳴って皆で復唱し
気合い入れとやらをして初朝礼を終えた
つ…疲れた…
俺は課長席に立ちすくんだまま
しばらく放心状態でいた
俺は朝礼を終えて気付いた
気合の入った熱血な教育カウンセリング会社だ
どんな教育をカウンセリングするんだろうか
しかも今自分が座っている課長席は
『やばい席だ』ということを
隣にいた猪木顔のしゃくれた笑顔をした先輩が俺に言った
『玉ちゃんさ 俺この前まで課長だったんだよ
ここは実力社会だから経歴より結果だから!
楽しみだよこれからよろしくな!』
元課長からの激励に泣きそうになった。
俺は何も仕事がわからない状態で課長席に座らされ
初めての民間会社をスタートしたのであった。
朝礼と掃除が終わり
俺は課長席で持参したお弁当を食べた
弁当は昨日のキムチ鍋の残りだった
その課長席から見る光景は清々しくもあり
身が縮こまり家に早く帰りたい心境でもあった
よりによって
キムチ弁当の匂いが恥ずかしい程の自己主張をしていた
異様な香りと雰囲気の中で
教育カウンセラーとしての一歩踏み出したのであった
だけどまだ何をカウンセリングするかは謎であった
ほろ苦い30歳の1月4日の出来事であった。


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